2016年5月26日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
1. 発表者:
Edmond Cheung (エドモンド・チャン)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
Kevin Bundy (ケビン・バンディ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任助教
2. 発表のポイント:
- Kavli IPMU の主導する MaNGA プロジェクトにより、red geyser (レッドガイザー) という種類の銀河の観測を行い、銀河中の超大質量ブラックホール (注1) からの風が銀河中のガスを暖めている様子を捉えた。
- 星形成に必要なガスが充分ありながら、超大質量ブラックホールからの風が銀河中のガスを暖めることで星形成が妨げられる、という説を支持する観測結果となった。
- レッドガイザーそのものの研究や、レッドガイザーが銀河の進化にどう関わるかを含む銀河進化研究の発展が期待される。
3. 発表概要:
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のエドモンド・チャン特任研究員とケビン・バンディ特任助教らを中心とする国際研究グループは、米国ニューメキシコ州にあるスローン財団望遠鏡に取り付けた新型分光器を用いた MaNGA (アパッチ・ポイント天文台近傍銀河地図作成) により、星形成が行われておらず中心部の超大質量ブラックホールから時おり風が吹き出すという特徴を持った red geyser (レッドガイザー) と呼ばれる種類の銀河を観測しました。その結果、星形成を妨げる原因となる銀河中でのガスの加熱が、超大質量ブラックホールからの風により引き起こされていることを観測から明らかにしました。これは、星形成に必要な材料は充分揃っていても、超大質量ブラックホールからの風の存在によって銀河中のガスが暖められ、星形成が妨げられるという説を支持するものです。本研究成果は英国科学雑誌 Nature のオンライン版に2016 年5月26日に掲載されました。
4. 発表内容:
我々の近傍の宇宙では、若い青い星が少ないため赤く、星形成が行われていない銀河が大半を占めています。しかし、こうした星形成が不活発な銀河の中には、星形成に必要な材料となるガスは充分ありながら、星形成の行われていない銀河があります。こうした銀河が、どのようなメカニズムで星形成を停止してしまっているのか、ということは謎であり天文学者を長年悩ませてきました。
今回の研究の中心となった東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のエドモンド・チャン特任研究員は、このことについて「星はガスの冷却や収縮により作られますが、これらの銀河ではガスが豊富なのにも関わらず新しい星が生まれていません。これはまるで、砂漠に雨雲が垂れ込めていながら雨が全く降っていないようなものです」と述べています。
そこで、エドモンド・チャン特任研究員と、同じく Kavli IPMU のケビン・バンディ特任助教らを中心とする国際研究グループは、米国ニューメキシコ州のアパッチ・ポイント天文台にある口径2.5メートルのスローン財団望遠鏡に取り付けた新型の分光装置を用い銀河の観測を行う MaNGA (アパッチポイント天文台近傍銀河地図作成; Mapping Nearby Galaxies at Apache Point Observatory) により、Akira というニックネームの銀河の観測を行いました。Akira は、red geyser (レッドガイザー) と呼ばれる新しく発見されたタイプの銀河の典型例にあたり、若い星が少ないため赤く、銀河中の超大質量ブラックホールから時おり風が吹き出すという特徴を持っています。
観測の結果、銀河中心の超大質量ブラックホールから流れ出るアウトフロー (注2) と呼ばれる風の存在によって、銀河中のガスが暖められる様子を捉えることが出来ました。Akira の持つ超大質量ブラックホールからのアウトフローは、Tetsuo というニックネームの更に小さい銀河との相互作用によって生み出されていると考えられ、このアウトフローは周辺のガスを暖めるのに十分すぎるほどのエネルギーを持っており、ガスの温度が高いとガスが収縮出来ず星が作れないことから、ガスが暖まることで更なる星形成が阻害されることが分かりました (図1) 。これは、星形成に必要な材料となるガスが充分あっても、超大質量ブラックホールからの風の存在によって銀河中のガスが暖められ、星形成が妨げられるという説を支持するものです。
今回観測を行った MaNGA というプロジェクトは、スローン財団望遠鏡を用いた銀河観測によって宇宙の地図を作成してきた SDSS (スローン・デジタル・スカイ・サーベイ) の新たな段階となる SDSS-IV に含まれるプロジェクトの一つで、2014年に観測を開始しました。銀河ひとつを最大127点同時分光観測出来るなど、銀河内の詳細な観測を可能としており、ケビン・バンディ特任助教が代表者をつとめています。
ケビン・バンディ特任助教は、「我々は、MaNGA によって銀河がどのように分布しているかだけでなく、銀河内の星やガスがどのように動いているかまでマッピングし、3次元的に銀河を観測できるようになりました」と述べており、MaNGA の観測で今後も重要な成果が出ることが期待されます。
研究チームは観測データの解析を引き続き行い、レッドガイザー自体の性質や、レッドガイザーが銀河進化全般にどのように関係するのかを明らかにしていく予定です。
本研究は、英国科学雑誌の Nature のオンライン版に2016 年5月26日に掲載されました。
5. 発表雑誌:
雑誌名:「Nature」
論文タイトル: Suppressing star formation in quiescent galaxies with supermassive black hole winds
著者: Edmond Cheung (1), Kevin Bundy (1), Michele Cappellari (2), Sébastien Peirani (1,3), Wiphu Rujopakarn (1,4), Kyle Westfall (5), Renbin Yan (6), Matthew Bershady (7), Jenny E. Greene (8), Timothy M. Heckman (9), Niv Drory (10), David R. Law (11), Karen L. Masters (4), Daniel Thomas (4), David A. Wake (7,12), AnneMarie Weijmans (13), Kate Rubin (14), Francesco Belfiore (15,16), Benedetta Vulcani (1), Yanmei Chen (17), Kai Zhang (6), Joseph D. Gelfand (18,19), Dmitry Bizyaev (20,21), A. RomanLopes (22), Donald P. Schneider (23,24)
著者所属:
1. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 2778583, Japan
2. Subdepartment of Astrophysics, Department of Physics, University of Oxford, Denys Wilkinson Building, Keble Road, Oxford OX1 3RH, UK
3. Institut d’Astrophysique de Paris (UMR 7095: CNRS and UPMC), 98 bis Bd Arago F75014 Paris, France
4. Department of Physics, Faculty of Science, Chulalongkorn University, 254 Phayathai Road, Pathumwan, Bangkok 10330, Thailand
5. Institute for Cosmology and Gravitation, University of Portsmouth, Dennis Sciama Building, Burnaby Road, Portsmouth PO1 3FX
6. Department of Physics and Astronomy, University of Kentucky, 505 Rose Street, Lexington, KY 405060055, USA
7. Department of Astronomy, University of WisconsinMadison, 475 North Charter Street, Madison, WI 53706, USA
8. Department of Astrophysical Sciences, Princeton University, Princeton, NJ 08544, USA
9. Center for Astrophysical Sciences, Department of Physics & Astronomy, The Johns Hopkins University, Baltimore, Maryland 21218
10. McDonald Observatory, Department of Astronomy, University of Texas at Austin, 1 University Station, Austin, TX 787120259, USA
11. Space Telescope Science Institute, 3700 San Martin Drive, Baltimore, MD 21218, USA
12. Department of Physical Sciences, The Open University, Milton Keynes, MK7 6AA, UK
13. School of Physics and Astronomy, University of St Andrews, North Haugh, St Andrews, Fife KY16 9SS, UK
14. HarvardSmithsonian Center for Astrophysics, 60 Garden Street, Cambridge, MA 02138, USA
15. Cavendish Laboratory, University of Cambridge, 19 J.J. Thomson Ave, CB3 0HE Cambridge, UK
16. University of Cambridge, Kavli Institute for Cosmology, CB3 0HE Cambridge, UK
17. Department of Astronomy, Nanjing University, Nanjing 210093, China
18. NYU Abu Dhabi, P.O. Box 129188, Abu Dhabi, UAE
19. Center for Cosmology and Particle Physics, New York University, Meyer Hall of Physics, 4 Washington Place, New York, NY 10003, USA
20. Apache Point Observatory and New Mexico State University, P.O. Box 59, Sunspot, NM, 883490059, USA
21.Sternberg Astronomical Institute, Moscow State University, Moscow
22. Departamento de Física y Astronomía, Facultad de Ciencias, Universidad de La Serena, Cisternas 1200, La Serena, Chile
23. Department of Astronomy and Astrophysics, The Pennsylvania State University, University Park, PA 16802
24. Institute for Gravitation and the Cosmos, The Pennsylvania State University, University Park, PA 16802
DOI:10.1038/nature18006(2016年5月26日掲載)
論文のアブストラクト(Nature のページ)http://nature.com/articles/doi:10.1038/nature18006
6. 問い合せ先:
報道対応
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
携帯: 080-9343-3171 Fax: 04-7136-4941
*_at_を@に変更してください
研究内容について
Edmond Cheung (エドモンド・チャン) [英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: edmond.cheung _at_ ipmu.jp Tel: 04-7136-6553
*_at_を@に変更してください
Kevin Bundy (ケビン・バンディ) [英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任助教
E-mail: kevin.bundy _at_ ipmu.jp Tel: 04-7136-6513
*_at_を@に変更してください
7. 用語解説:
(注1) 超大質量 (超巨大) ブラックホール
銀河の中心に存在し、太陽質量の数百万から数億倍の質量を持つブラックホール。
(注 2) アウトフロー
超大質量ブラックホールに物質が落ち込む際に解放されたエネルギーによって、周囲のガスが高速で外向きに広がって吹くとされる「風」。
8. 参考画像:
画像は http://web.ipmu.jp/press/201605-Akira/ からダウンロード可能です。