青みがかった超新星!初代星を発見する鍵を明らかに

2016年7月11日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

 

1.発表者:

Alexey Tolstov  (アレクセイ・トルストフ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
野本 憲一 (のもと・けんいち)
 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
石垣 美歩 (いしがき・みほ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
 

2.発表のポイント:

◆初代星と呼ばれる鉄などの重元素が欠乏している宇宙の初代の星が、超新星爆発を引き起こした場合のシミュレーションを行い、超新星爆発の際の光度変化を複数の波長 (色) に対して計算した。
◆初代星の超新星爆発では、重元素の多い一般的な星の超新星爆発の光度変化と異なる、特有の光度変化が示されることを明らかにした。
◆本研究成果は、謎の初代星を発見するのに超新星爆発の光度変化の特徴からも迫れる可能性を示しており、現在準備の進む将来的な観測プロジェクト等での観測が期待される。
 

3.発表概要:

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) のアレクセイ・トルストフ特任研究員と野本憲一特任教授・主任研究員、石垣美歩特任研究員らの研究グループは、初代星と呼ばれる、鉄などの重元素が欠乏している宇宙初代の星が、超新星爆発を引き起こした場合のシミュレーションを行い、超新星爆発の際の光度変化を複数の波長 (色) に対して計算しました。その結果、初代星の超新星爆発では、重元素の多い一般的な星の超新星爆発の光度変化と異なる、特有の光度変化が示されることを明らかにしました。この特徴的な超新星爆発の光度変化を観測で捉えることで、謎の初代星の発見に迫れる可能性があることを示しています。本研究成果は米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) に2016年4月21日掲載されました。
 

4.発表内容:
ビッグバンの1億年後の宇宙は、水素やヘリウムに満たされた暗い宇宙であったと言われています。その後、水素やヘリウムだけを成分とした初代星と呼ばれる、宇宙で初めての星が作られたと考えられています。この初代星や初代星の超新星爆発を探すことは、初期宇宙の様子を知るための重要な研究の一つです。これまで、初代星の性質は、宇宙の初期に第二世代の星として形成されたと考えられている、重元素が欠乏した寿命が長く暗い星の元素組成の観測から探られてきました (図1) 。これは、こうした星が初代星によりまき散らされた元素で形成されており、当時の宇宙の元素組成を保存していると考えられているためです。しかし、これはあくまで間接的な手法です。初代星や初代星の超新星爆発は初期の宇宙の現象であることから観測が難しく、未だ直接観測しての研究はなされていません。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) のアレクセイ・トルストフ特任研究員と野本憲一特任教授・主任研究員、石垣美歩特任研究員らの研究グループは、初代星と呼ばれる重元素が欠乏している宇宙初代の星が超新星爆発を引き起こした場合と、重元素の含有量が太陽程度の通常の星が超新星爆発を起こした場合の両者のシミュレーションを行い、それぞれの超新星爆発の際の光度変化を複数の波長に対して計算しました。

その結果、初代星の超新星爆発では、超新星爆発の始めに生じるショックブレイクアウト (注1) の後に続く「プラトー期」と呼ばれる光度が安定する期間が、初代星の超新星爆発の方が暗くて短く、青い波長が強く出ることが分かりました (図2) 。初代星の超新星爆発は、宇宙初期の現象であることから、現状の観測装置では観測が難しいものの、このような特徴を手がかりとすることで、将来的には初代星の超新星爆発を観測できることを示しています。

本研究の中心となったアレクセイ・トルストフ特任研究員は成果について「初代星の爆発は次の世代にあたる星や銀河形成に非常に大きな影響を与えています。まずは、近い将来、こうした現象をみとめられるような爆発がどのようなものか理解する必要があります。ここで最も難しいことは、現在の研究や観測に基づいた現実的なモデルを作ることです。重元素が欠乏した超新星爆発の観測的証拠を見つけられれば、それは初期の宇宙をより理解する一歩と言え、私たちにとって喜ばしいことです」と述べています。

また、野本憲一特任教授・主任研究員も「今回の結果から、例えば2018年に運用開始予定のJWST (ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡 注2) で、初代星の超新星爆発による光度変化を観測できる可能性があります」と述べています。

今後、理論モデルの更なる改良と観測による実証によって初代星の研究が更に発展することが期待されます。

本研究成果は米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) に2016年4月21日掲載されました。



5.発表雑誌:
雑誌名:「Astrophysical Journal」 
論文タイトル:
Multicolor light curve simulations of Population III core-collapse supernovae: from shock breakout to 56Co decay 
著者:Alexey Tolstov (1), Ken’ichi Nomoto (1,6), Nozomu Tominaga (2,1), Miho Ishigaki (1),
Sergey Blinnikov (3,4,1), Tomoharu Suzuki (5)  
 

著者所属:
1. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of
Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa,
Chiba 277-8583, Japan
2. Department of Physics, Faculty of Science and Engineering, Konan University, 8-9-1 
Okamoto,Kobe, Hyogo 658-8501, Japan
3. Institute for Theoretical and Experimental Physics (ITEP), 117218 Moscow, Russia
4. All-Russia Research Institute of Automatics (VNIIA), 127055 Moscow, Russia
5. College of Engineering, Chubu University, 1200 Matsumoto-cho, Kasugai, Aichi 487-8501,
Japan
6. Hamamatsu Professor 
DOI:10.3847/0004-637X/821/2/124 (2016年4月21日掲載)

論文のアブストラクト (Astrophysical Journalのページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)

6.問い合わせ先:

報道対応:
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
携帯: 080-9343-3171  Fax: 04-7136-4941
*_at_を@に変更してください

研究内容について:
Alexey Tolstov  (アレクセイ・トルストフ)[英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: alexey.tolstov _at_ ipmu.jp   Tel: 04-7136-6512
*_at_を@に変更してください

野本憲一 (のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp Tel: 04-7136-6567
*_at_を@に変更してください
 

7. 用語解説
(注1) ショックブレイクアウト
超新星爆発後の最初の数時間に起こる現象。超新星爆発を引き起こす星が自らの重力で中心部
へ落ち込み、その後に中心部から外に向かって生じる衝撃波が表面に到達して急に輝き出す。
超新星爆発の一連の光度変化の過程で最も明るい。

(注2) JWST (James Webb Space Telescope)
NASA (アメリカ航空宇宙局) が中心となり、ハッブル望遠鏡の後継として2018年運用開始を
目指し準備を進めている赤外線観測望遠鏡。
 

8.参考画像
※下記の画像は http://web.ipmu.jp/press/201606-BlueAndMetal/ からダウンロード可能です。