銀河系に付随する極めて暗い衛星銀河の発見

2016年11月22日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 

東北大学、上海天文台、国立天文台、プリンストン大学、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の研究者を含む国際研究チームは、ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム, HSC) が撮影したデータの中から、私たちの住む銀河系に付随する衛星銀河を新たに発見しました (図1)。この銀河はおとめ座 (Virgo) の方向に見つかった最初の矮小銀河であることから、「おとめ座矮小銀河 I (Virgo I)」と名付けられました。この銀河は最も暗い矮小銀河のひとつであり、銀河系の形成史やそれを左右するダークマター (暗黒物質) の性質を知る上で大変重要な発見です。
研究チームには、Kavli IPMU の石垣美歩特任研究員、高田昌広教授、機構長を兼ねる村山斉特任教授も参加しています。
 

銀河系に付随する衛星銀河はこれまで 50 個近く同定されており、そのうち矮小銀河と分類されるもの (光度が暗く小さな銀河) はこれまで 40 個程度発見されています 。その多くは「いわゆる超低光度矮小銀河 (注1)」と呼ばれるとても暗い銀河で、北半球で行われたスローン・デジタル・スカイ・サーベイ (SDSS) や、南半球で現在進行中のダーク・エネルギー・サーベイ (DES) などの探査観測でまとまった数が発見されてきました。ところが、これまでの観測では、口径 2.5 メートルから4メートルの中口径望遠鏡が使われてきたため、太陽に比較的近いものやあまり暗くない矮小銀河だけが同定され、もっと遠くで銀河系ハロー (球状星団などの古い恒星系が存在する銀河円盤周囲の広大な領域) の外側にあるものや、光度がとても暗い矮小銀河はこれまで見落とされてきました。今回、このような暗い矮小銀河の探査において、8.2 メートルという大口径を持つすばる望遠鏡と超広視野焦点カメラ HSC の組み合わせが威力を発揮しました。
 

銀河系のような一般的な銀河の形成には、ダークハローとよばれるダークマターの集積体が合体を繰り返しながら成長していき、そのダークハローの中にガスが落ち込んで恒星系ができたと考えられています。ところが、この標準理論によると、銀河系を包んでいるダークハローの中に数百から千を超えるような小さなダークマターの塊と、それに付随した恒星系すなわち矮小銀河の存在が予想されます。一方、これまで実際に同定された矮小銀河の数は予想よりも桁で少なく、「ミッシングサテライト問題」と呼ばれています。この数の食い違いを説明するには、ダークマターの塊の中で恒星が生まれる過程になんらかのブレーキがかかったか、あるいは、そもそもダークマターが本来考えているものと違う性質を持つ可能性があります。一方、未同定の暗い矮小銀河がもっとたくさん存在している可能性も指摘されており、決着がまだついていません。
 

すばる望遠鏡では、HSC を用いて非常に広い天域を観測する「戦略枠観測プログラム」を実施しており、今回見つかった暗い矮小銀河はこの初期データから見つかったものでした。HSC の「戦略枠観測プログラム」はこれからも続き、この初期データよりも 10 倍広い天域を観測する予定で、Virgo I のような暗い矮小銀河がさらに見つかることが期待されます。
 

詳しくは国立天文台ハワイ観測所のプレスリリース をご覧下さい。

本研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) に2016年11月14日付で掲載されました。
 

(注1) Ultra-faint Dwarf 銀河、略して UFD 銀河とも呼ばれます。可視光での絶対等級 (10 パーセク=32.6 光年の距離に置いた時の天体の明るさ) で -8 等級よりも暗い銀河です。


論文情報
雑誌名:「Astrophysical Journal」(ApJ, 832, 1)
論文タイトル:A New Milky Way Satellite Discovered In The Subaru/Hyper Suprime-Cam Survey
著者:Homma et al. 
DOI: 10.3847/0004-637X/832/1/21(2016年11月14日掲載)
論文のアブストラクト (Astrophysical Journalのページ) 
論文のプレプリント (arXiv.orgのページ)
 

問い合せ先
報道対応
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈 
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
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