2017年2月28日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
宇宙の起源と運命を探る宇宙の国勢調査の最初の観測結果が公開され、一般の方もデータを見ることができるようになりました。これから世界で最も「広くて深い」観測になります。
ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC; ハイパー・シュプリーム・カム) で進められている大規模な戦略枠観測プログラム (HSC-SSP) の第1期データが、2017年2月28日 (ハワイ現地時間2017年2月27日)、全世界に公開されました。データ量が膨大なため通常の手法では解析が困難ですが、専用のデータベースやユーザーインターフェースを開発することで、このビッグデータを用いた研究が誰でもできるような工夫が施されています。
HSC-SSP は、2014年から5, 6年をかけて300夜もの夜数を投資し、広い天域にわたり、深宇宙に広がる様々な銀河を撮像し (デジカメ写真)、言わば宇宙の国勢調査を行うプロジェクトです。これは、満月の視野角で換算すると約6000個分もの広さになります。国立天文台、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)、台湾中央研究院天文及天文物理研究所 (ASIAA)、米国プリンストン大学をはじめとする研究機関の研究者らが共同で観測を進めており、Kavli IPMU の高田昌広(たかだ・まさひろ)教授は、HSC-SSP のデータを使ったサイエンスワーキンググループのリーダーを務めています。
全世界に公開された今回の第1期データは、2014年からの61.5夜のデータです。総データ量は 80テラバイトと膨大で、まだ全体の6分の1のデータにも関わらず既に約1億個の銀河のカタログを作成することに成功しました。 例えば、広域観測で有名な米国のスローン・デジタル・スカイサーベイ (SDSS) では、同等のカタログを作成するのに10年以上の歳月を要しています。
この短期間にこれだけのデータ量を取得出来た理由は、HSC-SSP がすばる望遠鏡と HSC の性能を最大限に活かした大規模観測サーベイだからです。まず、すばる望遠鏡は主鏡が8.2m と大きく、高い集光能力を有します。さらに、すばる望遠鏡の主焦点に搭載されている HSC は 、104個の科学データ取得用 CCD (計8億7000万画素) で約1.77平方度の天域を一度に撮影できる超広視野カメラで、ハッブル宇宙望遠鏡に比べ約1000倍ほどの大きさの視野を持ちます。
さらに、データの質も高いものです。5つの広帯域フィルター (g, r, i, z, y バンド) と遠方の銀河を調べるのに役立つ狭帯域フィルターを用い、「ワイド」「ディープ」「ウルトラディープ」の3種類の深さ (注1) でサーベイを行っています。観測領域は「ワイド」「ディープ」「ウルトラディープ」の順にそれぞれ 108, 26, 4 平方度、観測の深さを示す限界等級は r バンド (波長約 620 ナノメートル) で約26.4, 26.6, 27.3等です。5つの広帯域フィルターと4つの狭帯域フィルターによる多色データで、星像の広がり具合を表すシーイングは0.6 ~ 0.8秒角 (1秒角は 3600分の1度角) です。他の観測に比べ、暗い銀河や遠方の銀河といった情報を含む非常に質の高いデータが取得出来るのです。
今回の第1期データの公開について、中心となる研究者は以下のように述べています。
HSC-SSP サイエンスワーキンググループのリーダーを務める Kavli IPMU の高田昌広教授
「すばる望遠鏡、HSC の性能を存分に活かした宇宙の画像データが公開できました。すばる HSC-SSP の威力により、非常に暗い天体、また空の広い領域にわたり宇宙を調べることができます。我々の天の川銀河については、遠く、暗い星、つまり銀河の端に存在する星まで見渡すことができ、天の川銀河の形成過程を調べることができます。宇宙全体のスケールでは、宇宙が減速膨張から加速膨張(約70億年前)に変遷してきた宇宙に存在する様々な銀河を見渡すことができ、すでに約1億個もの銀河カタログを作ることができました。これらのカタログ、データを用い、銀河の起源、ダークマター、ダークエネルギーの解明を目指します。」
HSC-SSP 研究代表者を務める国立天文台先端技術センターの宮崎聡教授
「HSC は広い天域を高い解像度で撮影できるカメラで、2014年より観測を続けてきています。今回そのデータの一部を、幅広い天文学研究に役立てていただくことを期待して、世界に向けて公開しました。ダークマターやダークエネルギー、さらには太陽系内天体から最遠方天体までの非常に幅広いサイエンスで大きな結果が得られると期待されています。現在、SSP チームでは多くの論文を執筆中で、日本の学術雑誌 (Publication of Astronomical Society of Japan) での特集号を企画しています。また、一般の方々にもご覧いただき、大望遠鏡で見た本物の宇宙を体験していただければと願っています。」
さらに、Kavli IPMU の村山斉機構長も以下のように述べています。
「日本の未来を考えるには、国勢調査で高齢化の進み具合を調べることが必要です。同じように宇宙の進化と運命を探るには、宇宙の『国勢調査』が必要です。つまり広い範囲にわたって、非常に遠方まで、たくさんの天体を観測して膨大なデータを解析することがポイントです。このために視野の広い世界最大級のすばる望遠鏡を使い、HSC という新しいデジカメを製作したのです。Kavli IPMU は約1mの巨大で特殊なレンズを含む光学系の設計、山頂の過酷な気候条件でも変形しない筐体の製作、3m のカメラをミクロンレベルで制御する機械制御のシステムに貢献しました。こうしてハッブル宇宙望遠鏡で何千年もかかる国勢調査を数年でできるようになり、宇宙の運命の解明にずっと近づきました。そして、HSC で撮影した天体を今建設中の分光器 PFS (Prime Focus Spectrograph) で2020年頃からさらに詳しく調べる予定で、HSC とPFS をあわせて全体で SuMIRe (すみれ) プロジェクトと呼んでいます。今後のデータと SuMIRe プロジェクトの進展に期待しています。」
本件については国立天文台ハワイ観測所のプレスリリースも併せてご覧下さい。
(注1) 「深さ」とは、どのくらい暗い天体まで観ることができるか、という意味です。同じ明るさの天体を比べた場合は、暗いことは遠いことを意味しているので、「奥行きの深さ」を表します。望遠鏡の鏡の大きさによる集光力がもちろん重要ですが、さらに露出時間も関係します。
関連リンク:
HSC-SSP データリリースサイト (英語) : https://hsc-release.mtk.nao.ac.jp
HSC プロジェクトサイト: http://subarutelescope.org/Projects/HSC/j_index.html
HSC-SSP サイト (英語) : http://hsc.mtk.nao.ac.jp/ssp/
問い合せ先:
研究内容について
高田 昌広(たかだ・まさひろ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授
E-mail: masahiro.takada _at_ ipmu.jp Tel: 04-7136-6510
*_at_を@に変更してください
報道対応
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
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