2018年2月22日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
1. 発表概要:
ラプラタ国立大学宇宙物理学研究所、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、京都大学、国立天文台などの研究者らからなる国際研究チームは、アルゼンチンのアマチュア天文家の Víctor Buso 氏が観測した超新星が、ショックブレイクアウト (図1) と言われる爆発したばかりの段階であったということを、観測データの解析及びシミュレーションから明らかにしました。ショックブレイクアウトは、理論的には以前から予測されていて、世界中の研究グループにより長年探索されてきましたが、継続時間の短い現象のため、これまでこれがショックブレイクアウトだと決定的に言える観測はありませんでした。重い質量の星がどのように超新星爆発として爆発するのかを理解する上で、今回得られた超新星爆発の最初の瞬間の情報は大変重要な一歩です。
研究チームには、Kavli IPMU からは野本憲一 (のもと・けんいち) 上級科学研究員が参加しています。更に、本論文の中心となった ラプラタ国立大学宇宙物理学研究所の Melina Bersten (メリーナ・バーステン) 研究員と Gastón Folatelli (ガストン・フォラテリ) 研究員はいずれも Kavli IPMU の客員准科学研究員であるほか、研究グループのメンバーである京都大学理学研究科の前田啓一 (まえだ・けいいち) 准教授、国立天文台の田中雅臣 (たなか・まさおみ) 助教らも、Kavli IPMU を併任とする研究者です。
本研究成果は英国科学雑誌 Nature の2018年2月22日号に掲載されました。
2. 発表内容:
重い質量の星がどのように超新星爆発として爆発するかを理解することは、天体物理学において重要ですが、爆発直前の星がどのような構造を持っていて、それが超新星爆発の性質にどのような影響を与えるかは明らかとなっていませんでした。そのため、超新星爆発が生じる最初の瞬間の情報を得ることは、この問題を解明する上で極めて重要です。理論的には、星の中心部で発生した爆発の衝撃波が星の内部へ伝わった後に表面へ到達し、X線や可視光の電磁波が鋭いピークとなって放射されると考えられています。超新星のこの最初期の様子はショックブレイクアウトと呼ばれており、突如として起きるという予測不可能な性質と短い継続時間のために観測が難しく、近年の大型観測の努力にも関わらず、これがショックブレイクアウトだと決定的に言える観測はありませんでした。
しかし、2016年9月にその状況は予期せずして変わることとなりました。アルゼンチンのロサリオのアマチュア天文家である Víctor Buso 氏は、家の屋根の上にある40cm反射望遠鏡に新しいカメラを搭載しテストしていました。彼は、天頂近くにあった渦巻銀河の NGC613 にカメラを向け、美しい写真を撮ろうと短時間露出で写真を撮り始めました。1時間近くして、Buso 氏は銀河中心の南側に新しくごく小さい天体が現れていたことに気づきました。小さな点は何処かに動いてしまい画像から消えるということもなく、時間が経つにつれより鮮明になっていきました (図2)。
Buso 氏が捉えたのは超新星爆発で、その後 SN2016gkg と呼ばれるようになりました。発見の噂はすぐにアルゼンチンの研究グループに伝わりましたが、彼らはこの観測結果がこれまでにない性質を持つことに直ぐに気づきました。大変暗い光度からの急速な発光率は、これまでの超新星では類似するものがありませんでした。Buso 氏の画像は、超新星爆発のショックブレイクアウトの段階で SN2016gkg が発見されたことを示す決定的な証拠でした。コンピュータシミュレーションを行った Kavli IPMU の客員准科学研究員でラプラタ国立大学宇宙物理学研究所の Melina Bersten 研究員は「これはアマチュア天文家による大変素晴らしい発見だとまず思いました。あるシミュレーションは、爆発前の星の状態次第で放出ピークが数秒から数時間続くことを示しています。Buso 氏がこの超新星爆発をどのように観測し、何を目の当たりにしたかを我々に話してくれた際、これは類い稀な発見だと気づきました」と述べています。
研究チームは注意深く画像を解析し、測光データとコンピュータシミュレーションを比較しました。データ解析を率いた、同じく Kavli IPMU の客員准科学研究員でラプラタ国立大学宇宙物理学研究所の Gastón Folatelli 研究員は、「アルゼンチンのパンパの中央にある大きな都市の中心で撮られた画像にも関わらず、驚いたことに質の高いものでした。空のコンディションは、あの夜はほぼ理想的な状態だったようです」と述べています。Buso 氏の発見は空のコンディションのみならず、様々な幸運とも言える偶然が積み重なりもたらされたものです。超新星爆発は平均して各銀河で1世紀あたり1個生じるかという頻度であり、1世紀が90万時間もあることを考えると、超新星爆発をちょうど捉えられる機会は100万分の1より少ない確率でしかありません。加えて、銀河の中心部や腕の部分など明るい場所で起きていたら、見過ごされてしまっていたかもしれません。超新星 SN2016gkg は丁度良いタイミングで爆発しただけでなく、銀河中心部から離れた場所で生じたことも幸いしました。
研究チームのモデルは、Buso 氏の観測した超新星 SN2016gkg の初期の急激な増光が間違いなく超新星爆発に伴う衝撃波の出現により生じたものであることを示しました。その結論は、超新星爆発のその後の進行の様子がモデルによって矛盾なく再現されたことによって裏付けられました (図3)。アマチュア天文家によりもたらされたこの幸運な発見により、ショックブレイクアウトの段階も含めた研究チームの全段階のモデルの正しさが検証されたのです。
Kavli IPMUの野本憲一上級科学研究員は
「ショックブレイクアウトは短時間ながら最も明るく輝く瞬間ですので、通常の超新星より、ずっと遠方の超新星が発見される可能性があります。現在、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC; ハイパー・シュプリーム・カム) を用い遠方まで広視野で撮像をおこなって、ショックブレイクアウトを発見するプロジェクトが進行中です。多数の超新星を観測すれば、稀な現象でも発見することが可能で、遠方の超新星の特性や出現率に違いがあるかどうか、大変興味深い観測計画です。そうした観測と理論モデルの構築の基礎として、今回の発見は大変貴重です」と述べています。
本研究は、英国科学雑誌 Nature の2018年2月22日号に掲載されました。
3 発表雑誌:
雑誌名:「Nature」
論文タイトル: A surge of light at the birth of a supernova
著者: M. C. Bersten (1,2,3), G. Folatelli (1,2,3), F. García (2,4,5), S. D. Van Dyk (6), O. G. Benvenuto (1,2), M. Orellana (7), V. Buso (8), J. L. Sánchez (9), M. Tanaka (10), K. Maeda (3,11), A. V. Filippenko (12,13), W. Zheng (12), T. G. Brink (12), S. B. Cenko (14,15), T. De Jaeger (12), S. Kumar (12), T. J. Moriya (10), K. Nomoto (3), D. A. Perley (16), I. Shivvers (12) & N. Smith (17)
著者所属:
1. Instituto de Astrofísica de La Plata (IALP), CONICET, Argentina
2. Facultad de Ciencias Astronómicas y Geofísicas, Universidad Nacional de La Plata, Paseo del Bosque, B1900FWA, La Plata,Argentina.
3. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe, Todai Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan.
4. Instituto Argentino de Radioastronomía (CCT-La Plata, CONICET; CICPBA), CC No. 5, 1894 Villa Elisa, Argentina.
5. Université Paris Diderot, AIM, Sorbonne Paris Cité, CEA, CNRS, F-91191 Gif-sur-Yvette, France.
6. Caltech/IPAC, Mailcode 100-22, Pasadena, California 91125, USA.
7. Sede Andina, Universidad Nacional de Río Negro, Mitre 630 (8400) Bariloche, CONICET, Argentina.
8. Observatorio Astronómico Busoniano, Entre Ríos 2974 (2000), Rosario, Argentina.
9. Observatorio Astronómico Geminis Austral, Rosario, Argentina.
10. Division of Theoretical Astronomy, National Astronomical Observatory of Japan, National Institutes of Natural Sciences, 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan.
11. Department of Astronomy, Kyoto University, Kitashirakawa-Oiwakecho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8502, Japan.
12. Department of Astronomy, University of California, Berkeley, California 94720-3411, USA.
13. Miller Senior Fellow, Miller Institute for Basic Research in Science, University of California, Berkeley, California 94720, USA.
14. Astrophysics Science Division, NASA Goddard Space Flight Center, Greenbelt, Maryland 20771, USA.
15. Joint Space-Science Institute, University of Maryland, College Park, Maryland 20742, USA.
16. Astrophysics Research Institute, Liverpool John Moores University, IC2, Liverpool Science Park, 146 Brownlow Hill, Liverpool L3 5RF, UK.
17. Steward Observatory, University of Arizona, 933 North Cherry Avenue, Tucson, Arizona 85721, USA.
DOI:10.1038/nature25151(2018年2月22日掲載)
論文のアブストラクト(Nature のページ)
https://www.nature.com/articles/doi:10.1038/nature25151
4. 問い合せ先:
報道対応
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください
研究内容について
野本憲一(のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 上級科学研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp Tel: 04-7136-5940
*_at_を@に変更してください
Melina C. Bersten(メリーナ・バーステン) [英語での対応]
ラプラタ国立大学宇宙物理学研究所・アルゼンチン科学技術研究委員会 研究員
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 客員准科学研究員
E-mail: merlinada.bersten_at_gmail.com
*_at_を@に変更してください
Gastón Folatelli(ガストン・フォラテリ) [英語での対応]
ラプラタ国立大学宇宙物理学研究所・アルゼンチン科学技術研究委員会 研究員
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 客員准科学研究員
E-mail: gaston _at_ fcaglp.unlp.edu.ar
*_at_を@に変更してください
5. 参考画像:
画像は http://web.ipmu.jp/press/201802-RFmoment/ からダウンロード可能です。